牧師 の書斎より その37『式文』
   
 

「あなたは,天地の造り主,全知全能にして憐み深い天の父なる神のみを信じま すか。」
これは私が洗礼式の誓約の際に受洗者に問う最初の一文ですが,私は,この文の 「神のみを信じますか」という問いかけに,はっきりと答えてゆくことは,キリ スト者の原点であると思うのです。この「信じる」といいますのは,言うまでも なく「全き信頼」のことです。ですから,この一文は,「神にのみ全き信頼をお き,この地上を生き抜いてゆきますか」と聞いているわけのですが,これはまた 同時に,「今後は罪のうちにある人間や人間の作った組織を信じることなく生き てゆきますか」と問いかけているわけです。

一つの例ですが,1933年3月。当時のドイツは「全権委任法」を採択。これにより, わかりやすく言えば,ドイツ国民はヒットラーに全き信頼することを法律上定めら れてしまったのと同じでした。その後,どのようなことが起こっていったのかにつ いては皆さんもよくご存知です。全き信頼を天地の造り主以外にもおいてしまうこ とが如何に恐ろしいことなのか,この出来事は教えています。これと同時代,日本 では天皇を中心とした国家を信じることを人々は強要されていきました。
では,キリスト教会はそのようなことと無縁であったのか,といいますと残念なが ら,キリスト教会も歴史上たくさんの過ちを犯してきました。その過ちの基となっ たのは,御言葉に権威があるとは考えずに,当時の教会組織とその教会の指導者た ちに権威があると考えていったことでした。そのような時代には,何と教会が軍隊 を組織していったことさえあったのです。(十字軍など)

では,現代ではどうでしょうか。現代の日本に生きている私たちキリスト者は,人 や人の作った組織に全き信頼をおいてしまう,信じてしまうということは起き得な いことなのでしょうか・・。私は現代の日本のキリスト者はこの誘惑を常に受け続 けていると思っているのです。特に,政府,国家,警察,医師などの権力行使でき る人たちは要警戒です。私は,警察の誤認逮捕や,医師の無責任な余命告知によっ て,ひどい目に遭った方々を何人も知っています。

しかし,何といっても一番気を付けてほしいのはマスコミです。これは一大権力だ からです。彼らは一斉にバッシングして,ある人を大悪党にしてしまうことができ ます。また詐欺師を有名な大芸術家にすることもできます。また,正義を振りかざ します。刺激的な表現をして人々の注目を集めます。その表現によって人々に傷つ けることになるか否かについては余り考えません。それが事実かどうかも怪しいこ とが意外と多いのです。彼らに標的にされた人たち,また,彼らに踊らされしまっ た人たちは実に気の毒です。しかし,私が最も心配するのは,疑ることのない子ど もたち,影響をもろに受ける青年たちのことです。キリスト者の皆さん。特に青年 の皆さん。信じないセンスを大切にいたしましょう。

「私は祈っています。あなたがたの愛が真の知識とあらゆる識別力によっていよい よ豊かになりあなたがたが,真にすぐれものを見分けることができるようになりま すように。」  ピリピ1:9


牧師:北澤正明